大判例

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大分地方裁判所 平成3年(ワ)14号 判決 1991年9月27日

原告

金丸宏明

被告

宋貞次

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自三二三万六九一八円及びこれに対する平成二年一月二四日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自、原告に対し、金二〇八一万二三二三円及びこれに対する平成二年一月二四日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 平成二年一月二四日午後二時頃

(二) 場所 大分県宇佐市大字法鏡寺二九〇番一先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 大型貨物自動車(北九州一一き五二六)

(四) 事故の態様 本件事故現場付近の建設現場に資材を運搬するため、本件事故現場に後進してくる加害車(被告宋が運転)を、原告が誘導していたところ、本件事故現場に停車中のクレーン車の手前一ないし一・二メートル付近まで加害車が接近したとき、原告が右手で停止合図をして、大声で停止を告げたにもかかわらず、加害車を運転していた被告宋は右指図に気付かず後進を続け、右クレーン車と加害車の間に、原告の左手を挟む事故(以下「本件事故」という。)を発生させた。

2  被告らの責任原因

(一) 被告宋は、加害車の運転手として加害車を前記のとおり後進させるにつき、誘導者である原告の指図及びその動静に注意すべき義務を怠つたことにより、本件事故を発生させたものであつて、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

(二) 被告堀本産業運輸は、加害車を所有し、同社の職務として被告宋に右車両の運転をさせていたものであるから、運行供用者として自賠責法三条の責任及び使用者として民法七一五条の使用者責任を負う。

3  受傷、治療及び後遺障害

(一) 原告は本件事故により、左手第一指基節骨骨折、左手中指中節骨骨折、左手小指基節骨骨折及び左手中手骨骨折の傷害を負つた。

(二) 原告は、右傷害のため、佐藤第一病院において平成二年一月二四日から同年二月二日まで入院(実日数一〇日)治療を、近藤整形外科及び丸井整形外科病院において平成二年二月七日から同年七月七日まで通院(実日数一五一日)治療を受けた。

(三) 原告は、右治療によつても、左手中指及び左手小指関節の拘縮による巧緻運動障害及び握力低下並びに左の手の平及び左上腕部に採皮などによる瘢痕等の後遺障害を残して、平成二年七月七日に症状は固定した。

4  損害

(一) 治療費 金一一八万七三一四円

(1) 佐藤第一病院 六六万四二四〇円

(2) 近藤整形外科 一〇万三二九〇円

(3) 丸井整形外科 四一万九七八四円

(二) 看護費 一万七二九五円

看護料金一万五二四〇円(泊り込み二日間)及び看護人紹介手数料二〇五五円

(三) 入院雑費 一万一〇〇〇円

入院一日あたり一一〇〇円として一〇日分

(四) 装具費 一万八二七二円

原告は左手にパツト等の装具の着用を余儀なくされた。

(五) 交通費 四万一〇七〇円

(1) 通院交通費 三万八九八〇円

(2) 転院交通費 二〇九〇円

(六) 着衣損害 一万〇〇〇〇円

(七) 診断書費用 七五〇〇円

(八) 休業損害 一七七万五六七一円

原告は本件事故当時、建設会社に勤務して特殊技能を要するALC板の取付作業に従事して、平成元年度には給与として三九二万八〇〇〇円の支払を得ていたが、本件事故に遭遇したため、前記の入、通院期間を含めて、一六五日分の給与の支給を受けられなかつた。

(九) 逸失利益 一四四七万一八五一円

本件後遺障害は自倍法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級に該当する。

原告は、本件後遺障害により、前記症状固定日(平成二年七月七日)から三一年間を通じて、その労働能力の二〇パーセントを喪失したこととなる。

前記のとおり、本件事故当時の原告の年収額は三九二万八〇〇〇円であるから、ホフマン方式による中間利息を控除して、右三一年間の逸失利益の現価を求めると一四四七万一八五一円である。

(三九二万八〇〇〇円×〇・二×一八・四二一四)

(一〇) 慰謝料 四四〇万〇〇〇〇円

(1) 入、通院慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

(2) 後遺障害等慰謝料 三四〇万〇〇〇〇円

(一一) 弁護士費用 一〇〇万〇〇〇〇円

原告は本件訴訟の提起、追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その手数料及び報酬を大分県弁護士会の定める基準によつて支払う旨を約したが、その内金一〇〇万円を被告らに負担させるのが相当である。

(一二) 損害の合計

以上の損害の合計額は二二九三万九九七三円となる。

5  損害の填補 二一二万七六五〇円

原告は、右損害の填補として、自賠責保険金等を二一二万七六五〇円受領した。

6  結論

よつて、原告は被告らに対し、前記損害額から前記填補額を控除した残額(二〇八一万二三二三円)及びこれに対する本件事故日(平成二年一月二四日)から完済まで、年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

3  同3の事実中、

(一)の事実は不知。

(二)の事実は争う。

(三)の事実は争う。

4  同4の事実中、

(一)の治療費中、(1)及び(2)は認め、(3)は一八万六一二〇円の限度で認めその余は否認する。

(二)の看護費は否認する。原告には付添看護の必要はなかつた。

(三)の入院雑費は、一日あたり七〇〇円が相当である。

(四)の装具費は認める。

(五)ないし(一一)は否認ないし争う。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

原告は、被告宋が加害車を運転して後進させるのを誘導していたものであるから、加害車の動静やその後進速度が徐行程度であつたことは十分に認識していたのであるから、本件事故直前に原告が左手を引いて、車両の間に挟まれる事態を避けることは容易であつた。これによれば、原告の過失を九〇パーセントとして過失相殺すべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)は当事者間に争いがなく、右事実といずれも成立に争いのない甲第一号証、同第八号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると請求原因2の事実(被告らの責任原因)が推認でき、この認定に反する証拠はない。

二  請求原因3(原告の受傷、治療及び後遺障害)について判断する。

前記事実といずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一ないし五、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認められる甲第二、三号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、本件事故により、左第一、第三、第五基節骨開放骨折、左第五中手骨開放骨折、左手掌、左一、三、五指圧挫創の傷害を負つた(乙第一号証の一)。

2  原告は右傷害のため、佐藤第一病院に平成二年一月二四日から同月三〇日まで入院(入院日数七日間)し、近藤整形外科に平成二年一月三〇日から同年二月一日まで入院(入院日数三日間)し、同月二日から同月七日まで通院(通院日数六日間)し、丸井整形外科に平成二年二月七日から同月七月七日まで通院(通院実日数一一五日)して、治療を受けた(乙第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一、二)。

3  原告には、請求原因3の(三)記載のとおりの後遺障害が残つた(甲第三号証)。

三  原告の損害について検討する。

1  治療費 一一八万七三一四円

前記の乙第一号証の二、同第二号証及び同第三号証の一、二によれば、原告は本件傷害のために、請求原因4の(一)の(1)ないし(3)記載の治療費を要する治療を受けたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  看護費

原告が、本件事故による傷害について、付添看護を受けるべき指示を医師がしたこと、あるいは現実に付添看護を必要とした事情があつたことを認めるべき証拠はないから、原告主張の看護費を被告らの負担に帰すことは相当でない。

3  入院雑費 一万一〇〇〇円

原告の主張額を相当と認める。

4  装具費 一万八二七二円

当事者間に争いがない。

5  交通費 四万一〇七〇円

前記の入、通院の事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告主張額を相当と認める。

6  着衣損害 一万〇〇〇〇円

原告本人尋問の結果によつて、原告主張のとおりであると認める。

7  診断書費用 七五〇〇円

原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合することにより、いずれも真正に成立したものと認められる甲第五号証の三ないし五によれば、原告は本件傷害について、診断書費用として七五〇〇円を下回らない負担をしたことが認められる。

8  休業損害 一四〇万九七七五円

成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件事故時において、有限会社KA技研に雇用されて、ALCと称される外壁材の加工組立作業に従事してきて年額三九二万八〇〇〇円の給与の支給を得ていたことが認められる(この認定に反する証拠はない。)。

したがつて、原告は前記の入、通院期間(一三一日)に相当する給与の支給を得られなかつたことが推認されるから、原告の休業損害額は一四〇万九七七五円となる。

9  逸失利益

原告は、前記の後遺障害によつて、症状固定日から三一年間を通じて労働能力の一部を喪失したものであるところ、原告の右後遺障害は自倍法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級九号に該当するものと認めるのが相当であるから、結局、原告は労働能力の一四パーセントを喪失したものと認める。

原告は、前記のとおり収入を得ていたものであるから、本件事故に遭わなければ、右収入を維持していたものと認められるので、右収入額を基礎として、原告主張の方式によつて逸失利益の現価を算出することが相当である。これによれば右逸失利益の現価は一〇一三万〇二九六円となる。

(三九二万八〇〇〇円×〇・一四×一八・四二一四)

10  慰謝料 三四〇万〇〇〇〇円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、慰謝料は、入通院について一〇〇万円、後遺障害について二四〇万円とするのが相当である。

四  過失相殺について判断する。

1  原告本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したと認められる甲第七号証及び成立に争いのない甲第八号証に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、別紙交通事故現場見取図(以下「本件見取図」という。)表示<1>点に停車した加害車を同<ア>点で誘導し、同車の後部が同点に停車していた本件クレーン車の手前一メートル位の位置で停止するようにその後進の誘導を始め、適当な時期に停止の指示を加害車の運転手の被告宋にしたにもかかわらず、加害車が低速で後進を続けるため、これに従つて後退し、同<×>点において、加害車と本件クレーン車との間に左手を挟まれたことが認められる。

2  右認定の事故の態様によれば、本件事故の直前において、原告が左手を加害車と本件クレーン車の間から引き出せば、本件事故の発生は避けられたものであり、しかも、そのような行動をとることは実に容易であつて、原告にとつて、一挙手一投足の労にも満たないものであつたことが明らかである。そうすると、本件事故は、加害車の後進速度がゆるやかなことに気を緩めて、左手が危険な状態にあることを、本件事故発生に至るまで気づかなかつたため、本件事故を避けえなかつた点で、原告には、後進する加害車を誘導していた者として、加害車の運転手に倍する以上の注意義務違反があり、その過失割合は七割とみるべきである。

したがつて被告らが原告に賠償すべき損害額は、四八六万四五六八円となる

五  損害の填補

原告が二一二万七六五〇円を本件損害の填補として受領したことは当事者間に争いがない。

したがつて、被告らが原告に賠償すべき損害の残額は二七三万六九一八円となる。

六  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、五〇万円と認めるのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 楠本新)

別紙 <省略>

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